90年代のEmperorとMayhemは、同じノルウェー発ブラックメタルでも、ブラックメタルの「核」を別方向へ押し広げた。Mayhemは音数・音色・演奏の冷酷さを削ぎ落として、儀式性と不穏さを極限まで純化した方向。Emperorはその暗黒性を保ちながら、シンフォニックな鍵盤、複雑な構成、壮大な展開によって、ブラックメタルを大規模で進歩的な音楽へ拡張した方向である。前者が原型の威圧感、後者が様式の発展可能性を示した、と捉えると分かりやすい。
PERIOD CONTEXT当時の文脈
Mayhemの『DE MYSTERIIS DOM SATHANAS』は、1990年代ブラックメタルの基準点として、呪詛的なヴォーカル、冷たいリフ、猛烈なブラストを結び付けながら、単なる要素の集合を超えた隔絶感を持つ作品として語られている。重要なのは、洗練や華美さではなく、演奏の不安定さや音の荒涼感まで含めて、ブラックメタルを危険で反人間的な表現として成立させた点だ。Mayhemは後続に「どれだけ暗く、冷たく、儀式的になれるか」という軸を残した。 一方Emperorの『IN THE NIGHTSIDE ECLIPSE』から『ANTHEMS TO THE WELKIN AT DUSK』への展開は、ブラックメタルを大気的・交響的・劇的なものへ変えた。特に『ANTHEMS』では鍵盤とクリーン・ヴォーカルの比重が増し、当時はその拡張性が批判も招いたが、バンドは既存の型を守るより創作上の可能性を優先した。90年代後半には、ブラックメタルが単一の地下様式ではなく、シンフォニック、プログレッシヴ、実験的な方向へ分岐できることを示す存在になった。 したがって両者の違いは、単純な「音が荒い/壮大」という対比ではない。Mayhemはブラックメタルの神話的・原初的な権威を固定し、Emperorはそこから作曲、音響、スケールを拡張した。後年の日本語圏の評価でも、Mayhemは金字塔的な原点、Emperorは革新的・実験的な集団として対照的に位置付けられている。
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EVIDENCE根拠メタ情報
- BURRN! 2022年5月号・Mayhem作品の金字塔的評価
- BURRN! 2022年6月号・ブラックメタルの危険性と拡張
- BURRN! 2020年1月号・鍵盤と歌唱拡大への評価
- BURRN! 2018年1月号・初期Mayhemの形成史と神話化
CONFIDENCE確度
高(high)
NOTES注意点
90年代当時の日本雑誌による両バンドの連続的な点数評価や、同一基準での比較は限られるため、ここでは代表作への後年の評価と音楽的特徴を軸に整理している。作品の歴史的重要性と、当時の一般的な人気や売上は同じ意味ではない。